ニューラリンク(Neuralink)とは|ひとことで
ニューラリンクは、脳に装置を埋め込んで神経の信号を読み取る「脳埋め込み型の BCI」を開発している米国の会社です。会社の正式名は Neuralink Corp。自社を「Brain Computer Interfaces」を開発する会社と呼び、公式サイトの題も「Pioneering Brain Computer Interfaces」です。日本の国の資料は「ブレインマシンインターフェース(BMI)」と書くことが多いのですが、ニューラリンクの公式の更新欄は、BCI(brain-computer interface)という言葉を使っています。
最初の対象は、脊髄損傷や ALS(筋萎縮性側索硬化症)などで手足をほとんど動かせない人です。会社は、この人たちがパソコンやスマートフォン、ロボットアームを、考えるだけで操作できるようにする機能を「Telepathy(テレパシー)」と呼んでいます。公式の発表は、Telepathy を「手や腕の筋肉をつかさどる脳の領域から神経活動を記録し、傷ついた神経経路を迂回してデジタルの命令に変える」ものと説明しています(Neuralink「Two Years of Telepathy」2026年1月28日)。
| 見方 | 中身(2026年11月5日に確かめた範囲) |
|---|---|
| 種類 | 頭蓋内に埋め込む「侵襲型」の BCI。装置の名前は N1 Implant(会社は「Link」とも呼ぶ) |
| 手術 | 専用の手術ロボット R1 が、髪の毛より細い糸状の電極を脳に挿入する |
| いま行われていること | 治験(実現可能性試験)。承認された製品として売られている情報は確かめられなかった |
| 参加者の数 | 会社は2026年1月28日に「21人」と公表 |
| 治験の場所 | 米国・カナダ・英国・アラブ首長国連邦。日本の施設は無い |
| 会社の形 | 確かめた範囲では上場していない(後の節で説明) |
表は、Neuralink の公式発表と米国の臨床試験登録(ClinicalTrials.gov)を編集部がまとめたものです。
この記事は、「ニューラリンクとは何か」「何がすごいのか」「いまどうなっているのか」「上場しているのか」に、会社の公式の発表・治験の登録・査読を経た論文・信頼できる報道の順に答えます。そのうえで、Synchron などほかの BCI 会社や日本の会社との比べ方と、日本で BCI の仕事に就く道を書きます。会社の発表は会社自身の報告で、第三者が確かめた結果ではありません。そこは本文の中で毎回分けて書きます。
どんな会社か|公式の説明・資金・上場しているか
2021年7月29日の資金調達の発表は、会社を次のように説明しています。ニューラリンクは「イーロン・マスクが、近い将来には麻痺や神経の病気のある人を助け、長期的には AI のリスクを減らすために創業した」。使命は「さまざまな脳の病気を治療する脳コンピューターインターフェースを作ること」で、最終的な目標は「生物的な知能と人工的な知能をより密接につなぐ、脳全体のインターフェース」を作ることです(Neuralink「Series C Funding Round Announcement」)。
公式に発表された資金調達
公式サイトの更新欄に載っている資金調達の発表は、次の3回です。金額と日付は会社の発表のとおりです。
| 発表日 | ラウンド | 金額 | 公式の説明 |
|---|---|---|---|
| 2021年7月29日 | Series C | 2億500万ドル | Vy Capital が主導。最初の製品を市場に出し、次の装置の研究開発を進める資金とする(発表) |
| 2023年8月7日 | Series D | 2億8,000万ドル | Founders Fund が主導(発表) |
| 2025年6月2日 | Series E | 6億5,000万ドル | ARK Invest、Founders Fund、Sequoia Capital など。調達の発表は、重度の麻痺のある5人が使っていること、3か国・2大陸での治験、視覚と発話の2つの計画が FDA のブレークスルー・デバイス指定を受けたことを進展として挙げた(発表) |
出典: Neuralink 公式の更新欄(2026年11月5日に開いて確認)。金額は会社の発表の数字で、当サイトが確かめたものではありません。
上場していますか
確かめた範囲では、上場していません。公式サイトの資金調達の発表は、いずれも特定の投資家が参加する「ラウンド」の形です。証券取引所への上場の案内は、公式サイトにも、この記事で引くロイターの配信(2026年1月1日付)にも見つかりませんでした。この記事は株価や投資の判断を扱いません。
働く場所
公式の採用ページに載っている求人の勤務地は、米国のテキサス州オースティン、カリフォルニア州のサウス・サンフランシスコとフリーモントです。採用の中身は、後の「日本で BCI の仕事をするには」の節で詳しく書きます。
何がすごいのですか|装置と手術の仕組み
ニューラリンクの特徴は、頭蓋内に置いた大量の電極で、神経細胞の近くから信号を無線で取り出す点です。会社の2024年4月12日の説明にもとづくと、仕組みは4つの部品でできています(Neuralink「PRIME Study Progress Update」)。
| 部品 | 会社の説明 |
|---|---|
| N1 Implant(埋め込む装置) | 頭蓋内の皮質に置く BCI。64本の柔らかい「糸(スレッド)」に1,024個の電極が並ぶ。糸は髪の毛より細く、一本ずつ別々に脳へ置ける |
| R1 Robot(手術ロボット) | 糸が細すぎて手では扱えないため、糸を皮質へ正確に挿入する専用のロボット |
| Neuralink Application(アプリ) | 装置が無線で送る神経データを、外部の機器(コンピューターなど)上で解読し、カーソルの動きなどに変える |
| N1 Charger(充電器) | 装置の内蔵電池を、体の外から電磁誘導で充電する。無線の通信と充電により、頭皮の下に収まり、外から見えず、機器とつなぐ端子が無い |
出典: Neuralink 公式(2024年4月12日)。「1,024個」は会社の説明で、2025年5月2日の安全性の説明では「1,000個以上の電極」「直径は米国の25セント硬貨ほど」と書かれています。
手術はどう行うのか
会社の説明によると、手術の流れは次のとおりです。まず、手を動かそうとした時に活動する脳の場所を fMRI で調べ、糸を置く目標の位置(運動に関わる中心前回)を決めます。次に、脳神経外科医が頭皮を切り、埋め込む装置の直径に合わせて頭蓋骨の円盤と、その下の硬膜(脳を包む膜)を取り除きます。ロボットが糸を皮質へ挿入し、装置を頭蓋骨の穴にはめて、皮膚を閉じます(2024年4月12日、2025年5月2日)。
つまり、外から見えない装置でありながら、手術は開頭を伴います。会社自身も、この方法は「神経外科手術を要する」と書いています。最初の参加者は手術の翌日に帰宅した、と会社は公表しています。
他の測り方と何が違うのか
会社は、頭皮の上から測る脳波(EEG)や fMRI、脳の表面に置く ECoG(皮質脳波)は、自社の目的には向かない、と書いています。理由は「神経細胞レベルの解像度が無い、または毎日の使用に現実的でない」ことです(2025年5月2日)。これは会社の立場で、研究者の間で一致した結論ではありません。国の資料は、体の内側から測る侵襲型は精度が高い反面、使う人の負担が大きいと整理しています(内閣府・文部科学省、令和5年12月)。
| 方式 | 測る場所 | 代表例(公式の説明にもとづく) |
|---|---|---|
| 非侵襲(脳波など) | 頭皮の外 | LIFESCAPES の医療用 BMI。手術は不要で、使う人の負担が低い(国の資料の整理) |
| 血管の中 | 脳の血管の内側 | Synchron の Stentrode。開頭手術を行わず、血管から電極を置く |
| 脳の表面(皮質表面) | 脳の表面に電極を置く | Precision Neuroscience の Layer 7(脳の表面に置く電極アレイ) |
| 皮質内(侵襲型) | 神経細胞の近くに電極を刺す | Neuralink の N1、大学の研究で使われるマイクロ電極アレイ |
方式の分け方は編集部の整理です。各社の説明は、後の「ほかの BCI との比べ方」の節の出典に当たってください。
脳の技術の求人をチェック
求人一覧を見る現在どうなっていますか|治験の現在地(2026年11月5日時点)
現在地を知るには、会社の発表だけでなく、米国の臨床試験登録(ClinicalTrials.gov)を合わせて見るのが確実です。登録は、治験を行う会社が試験の目的・対象・場所・評価項目を事前に公開する仕組みで、会社の宣伝文とは別の確かめ先になります。
年表|公式の発表と登録で確かめた出来事
| 日付 | 出来事(出典) |
|---|---|
| 2023年5月 | FDA(米国食品医薬品局)から最初の治験のための治験機器免除(IDE)を得た、と会社が公表(2023年9月19日の発表) |
| 2023年9月19日 | 最初の治験 PRIME の参加者募集を開始(発表) |
| 2024年1月 | 最初の人への埋め込み。米国アリゾナ州フェニックスの Barrow Neurological Institute(発表、登録上の開始日は2024年1月9日) |
| 2024年7月 | 2人目の参加者が埋め込み(2024年8月21日の発表) |
| 2024年9月17日 | 視覚を補う計画 Blindsight が FDA のブレークスルー・デバイス指定を受けた(発表) |
| 2024年11月20日 | カナダ保健省の承認を得て、初の海外の治験 CAN-PRIME を開始(発表) |
| 2024年11月24日 | ロボットアームを操作する治験 CONVOY を開始(発表) |
| 2025年5月1日 | 重い発話障害のある人の意思伝達について、FDA のブレークスルー・デバイス指定を受けた(発表) |
| 2025年5月9日 | アラブ首長国連邦で UAE-PRIME を開始(登録上の開始日。登録) |
| 2025年6月2日 | Series E の発表。5人が使用中(発表) |
| 2025年7月31日 | 英国の GB-PRIME を、英国の規制当局と倫理委員会の承認を得て開始(発表) |
| 2025年10月3日 | 発話の回復を目指す治験 VOICE を開始(登録上の開始日。登録) |
| 2026年1月28日 | 参加者は21人と公表(発表) |
| 2026年10月1日・29日 | 公式の更新欄に技術の解説が追加。1日は、参加者から集めた5万時間を超えるラベルの無い脳データで信号を読み解く AI を事前に学習させ、1人が 11.32 BPS に達したと書いた。29日は、エンジニアが VOICE の参加者の自宅で72時間、機能の試作と試験をした様子を載せた(10月1日、10月29日) |
出典の各ページは2026年11月5日に開きました。2026年10月の2件は、本文が JavaScript で表示されるため、ページが読み込む JavaScript のファイルから本文を読んで確かめました。
治験の登録|6件、いずれも実現可能性試験
ClinicalTrials.gov で、依頼者が Neuralink Corp の治験は6件ありました。すべて介入研究で、段階は「該当なし(NA)」、群の分け方は単一群です。正式名で「早期の実現可能性試験(Early Feasibility Study)」と名乗るのは5件で、UAE-PRIME は「実現可能性試験(Feasibility Study)」です。比べる群を置く大規模な試験ではなく、少人数で安全性と装置の働きを見る初期の試験です。
| 試験 | 状況 | 予定人数 | 場所 | 登録上の開始日 |
|---|---|---|---|---|
| PRIME(四肢麻痺の人が対象) | 募集中 | 15人 | 米国(Barrow Neurological Institute、University of Miami) | 2024年1月9日 |
| CONVOY(PRIME 参加者がロボットアームなどを操作) | 招待による参加 | 3人 | 米国(Barrow Neurological Institute) | 2024年11月25日 |
| CAN-PRIME | 募集中 | 6人 | カナダ(トロントの University Health Network) | 2024年11月20日 |
| UAE-PRIME | 募集中 | 10人 | アラブ首長国連邦(Cleveland Clinic Abu Dhabi) | 2025年5月9日 |
| GB-PRIME | 募集中 | 7人 | 英国(ロンドンの UCLH、ニューカッスルの病院) | 2025年7月31日 |
| VOICE(発話の回復) | 募集中 | 6人 | 米国(ダラスの UT Southwestern) | 2025年10月3日 |
出典: ClinicalTrials.gov の各登録(2026年11月5日に確認)。人数は「予定」で、実際の参加者数ではありません。登録の更新日は試験ごとに異なります。ほかに、リハビリ施設 Shirley Ryan AbilityLab が依頼者で、Neuralink Corp が協力者として載る別の試験(支援技術と BCI の効果を測る共通の方法を作る研究、予定60人)も、検索すると出ますが、Neuralink が依頼者の治験ではないので、上の6件には入れていません。
PRIME の登録を見ると、参加の条件は、脊髄損傷または ALS で、手・手首・腕の動きがごく限られるか無い状態が少なくとも1年続き、年齢は22歳から75歳、英語で意思疎通ができ、安定した介護者がいること、などです。主要な評価項目は「埋め込みから12か月の、装置に関係する有害事象と、手術に関係する有害事象」です。つまり、この試験の第一の問いは、役に立つかどうかより前に、安全かどうかです。
VOICE の登録は、対象を「ALS、原発性側索硬化症(PLS)、脳卒中、脊髄損傷で、重い発話障害と上肢の障害がある成人」とし、副次的な評価項目に、発話の BCI としての性能(1分間に正しく出せる単語数)を挙げています。
参加者の数の推移
会社が公表した参加者の数は、次のように増えています。
- 2025年2月5日: 3人(Noland、Alex、Brad。全員 PRIME)(A Year of Telepathy)
- 2025年6月2日: 5人(Series E の発表)
- 2025年9月: 12人。ロイターが「同社が9月に発表した」と報じた数字です(ロイター配信、2026年1月1日付)
- 2026年1月28日: 21人。会社は「世界の治験に登録された21人」と書いています(Two Years of Telepathy)
同じ発表の中で会社は、参加者の数は2024年の3人から、2025年には月に複数人のペースになったと書き、2026年に向けてさらに増やす考えを示しています。日本総研の2026年4月9日の報告も、21人(2026年3月時点)と記しています(日本総研「ブレインテック最新動向2026」)。2026年1月以降の最新の人数は、公式の発表で確かめられませんでした。
参加者が使えていること(会社の公表)
会社は、参加者の使い方を、数字と機能で次のように公表しています。いずれも会社の報告で、査読を経た論文ではありません。
- カーソル操作: 手を動かそうとする意図でカーソルを動かす。参加者の一人 Alex は、使い始めて5分以内にカーソルを動かし始めた、と会社は書いています(2024年8月21日)。
- 速さの指標: 会社は「情報伝達率(BPS、1秒あたりのビット数)」で測っています。会社は、手でマウスを使う健常者の平均を「毎秒8〜10ビット程度」とし、複数の参加者がその範囲に達した、最初の週に毎秒10ビットを超えた人もいた、と書いています(2026年1月28日)。2026年10月1日の更新欄は、参加者の BPS の中央値をおよそ10とし、脳データの事前学習を入れた後、それまでの記録 10.39 BPS を3人が超え、1人が 11.32 BPS に達した(会社は「BCI の新記録」と書く)としています(2026年10月1日)。
- 文字入力: 片側の脳に埋め込んでも両手の強い信号が得られることを見つけ、10本の指を文字に割り当てる「心の中の10本指キーボード」で、最大で1分間に40語に達した参加者がいる、と会社は書いています。
- ロボットアーム: 4年間四肢を動かせなかった参加者が、食事やかゆみを掻くといった基本の作業を、ロボットアームで行ったと書いています。
- 1日の使用: 2025年1月の1か月で、参加者は装置を一人で平均1日6.5時間使った、と会社は書いています(2025年2月5日)。
会社の次の目標も、目標として書かれています。2026年1月の発表は、VOICE の治験で「会話の速さである1分間に140語」を目標にすると書きました。目標は達成した結果ではありません。
公表されている課題とこれから
会社自身が、うまくいかなかった点も公表しています。
- 糸が抜ける問題: 最初の参加者では、一部の糸が脳から引き抜けるように動き(スレッド・リトラクション)、BCI の性能が一時下がった、と会社は書いています。その後、糸は落ち着き、性能は回復したとしています。2人目では、手術中の脳の動きを抑え、装置と脳の表面の隙間を小さくする対策をとり、糸の引き抜けは見られなかった、と会社は書いています(2024年8月21日)。
- 人による差: 2026年1月の発表で会社は、この対策のあと、その後の20人のうち18人で信号の質が上がったと書く一方、性能のばらつきは残り、頭蓋内の隙間の違いや、ALS の進行の段階と関係があるようだと書いています。
- 次の改良の計画: 会社は「今後数か月で、電極を1,000個から3,000個に増やす」「糸の保持を改善する」「糸を硬膜を貫いて挿入する方法を調べる」と書いています。これは計画で、実施の確認はできていません(2026年1月28日)。
- 安全性の数字: 会社は、いまの「重大な装置関連の有害事象ゼロ」の記録を保ちたいと書いています。これは会社の自己申告で、第三者の検証や査読論文は確かめられませんでした。
2026年11月5日時点で、PRIME の参加者の結果をまとめた査読論文は、公式サイトにも検索にも見つかりませんでした。会社の更新欄は技術の報告が中心で、論文とは性格が違います。数字を引用するときは、「会社が公表した」と付けるのが正確です。
将来の計画については、ロイターが2026年1月1日付で、マスク氏が X に「2026年に脳インターフェースの大量生産と完全自動の手術に移る」と投稿したと報じています。ロイターは、会社に取材したが当日に返答はなかったとも書いています。これは本人の投稿であり、会社の公式発表でも実現の確認でもありません。
Telepathy・音声・Blindsight|3つの計画の現在地
| 計画 | 目指すこと(公式の説明) | 確かめられた状況 |
|---|---|---|
| Telepathy(テレパシー) | 麻痺のある人が、コンピューター、スマートフォン、ロボットアームを考えるだけで操作する | PRIME などの治験で参加者が使用中(会社の公表で21人)。承認された製品ではない |
| 発話の回復(VOICE) | ALS や脳卒中などで話せない人の、リアルタイムの意思伝達を回復する。2025年5月1日にブレークスルー・デバイス指定 | VOICE が2025年10月に開始(登録上)。2026年10月29日の更新欄に参加者を訪ねたエンジニアリングの記事 |
| Blindsight(ブラインドサイト) | 視覚障害のある人を対象とする計画。2024年9月17日にブレークスルー・デバイス指定 | 最初の人への埋め込みが行われたかは、公式の発表では確かめられなかった。日本総研は、2026年内の開発予定と書く |
出典: Neuralink 公式の各発表(発話、Blindsight)、ClinicalTrials.gov、日本総研の報告書。
「ブレークスルー・デバイス指定」は、承認ではありません。FDA の説明は、これを一部の医療機器を対象にした任意の制度とし、開発・評価・審査を早めるものと書いています。販売には、通常と同じ安全性と有効性の基準を満たすことが必要です(FDA「Breakthrough Devices Program」)。
何ができて、何がまだか
| 項目 | 確かめられていること | まだ確かめられていないこと |
|---|---|---|
| 操作 | 会社は、装置をつないで5分以内にカーソルを動かし始めた参加者がいること、速さの指標が健常者のマウス操作の範囲に達した参加者がいることを公表 | 第三者が確かめた論文は見つからなかった |
| 安全 | 治験の主要評価項目は12か月の有害事象。会社は重大な装置関連の有害事象は無いと公表 | 12か月の結果は、登録にも査読論文にも見つからなかった。長期の影響は不明 |
| 対象 | 四肢麻痺(脊髄損傷、ALS)が中心。発話障害や視覚障害へ広げる計画 | それぞれで効果があるかは、治験の結果待ち |
| 販売 | ブレークスルー・デバイス指定は2つ(視覚・発話) | FDA の承認・認証を受けた製品は、確かめられなかった |
| 日本 | 日本の国の資料は、FDA が Neuralink に臨床試験を認めた事例を、米国の侵襲型の先行の例として書いている | 日本での治験の登録は無い |
日本の国の資料は、内閣府・文部科学省の研究開発構想(令和5年12月)です。確かめた日は2026年11月5日です。
ほかの BCI との比べ方|Synchron・Precision・日本
ニューラリンクだけが BCI の会社ではありません。比べるときは、「どこに電極を置くか」「治験がどの段階か」「何が承認・認証されているか」の3点を、同じものさしで見るのが分かりやすい方法です。
海外の主な会社
| 会社 | 方式 | 公式・登録で確かめたこと |
|---|---|---|
| Neuralink(米) | 皮質内に糸状電極を挿入 | 治験6件、参加者21人(2026年1月)。承認製品は無い |
| Synchron(米) | 血管内に入れる Stentrode。開頭手術を行わない | 公式は「治験中の機器で、臨床的な利益は確かめられておらず、どの地域でも商業利用は承認されていない」と書く(Synchron 公式)。COMMAND 試験は6人が参加(登録の状況は「Active, not recruiting」=募集は終わり、試験は続いている)。2026年に ALS 向けの INTENT(登録)、カナダの FOCUS-CAN(登録)、豪州の FOCUS-AUS(登録)が始まった。いずれも予定10人 |
| Precision Neuroscience(米) | 脳の表面に置く高密度の電極アレイ(Layer 7) | 2025年4月17日、FDA の 510(k) を得た。ただし対象は電極のアレイで、埋め込める期間は最長30日。無線で完全に埋め込む BCI の全体は開発中、と会社の発表は書く(会社の発表)。公式サイトは、治験の患者は「100人以上」と書く(公式サイト) |
| Blackrock Neurotech(米) | 皮質内のマイクロ電極アレイ | 公式サイトは「19年以上の人での研究」「1,000以上の研究施設」と書く(公式サイト) |
| Merge Labs(米) | 超音波で脳の血流の変化を読む方式を目指す | 日本総研は、2026年1月創業と書く。成人の頭蓋骨を超音波が通りにくいため、頭の外から高精度に測るのは現在の技術では難しい、とも書く(日本総研) |
Synchron の登録は ClinicalTrials.gov(COMMANDほか)。Precision と Blackrock の人数や年数は各社の公式サイトの自己申告で、Precision の発表(2025年4月)は「これまで37人」、公式サイトは「100人以上」と、時期が違う数字が並んでいます。
査読論文で確かめられていること
会社の発表と別に、査読を経た論文で確かめられている BCI の成果もあります。ニューラリンク以外の研究が中心です。
| 論文 | 内容(論文の要旨) |
|---|---|
| Hochberg ほか、Nature、2012年5月 | 四肢麻痺の2人が、運動野の96チャンネルの電極アレイの信号で、ロボットアームを使って物をつかんだ。1人は、装置を埋め込んで5年後に、ロボットアームでボトルからコーヒーを飲んだ。要旨は、動きの速さと正確さは健常者に及ばなかったと書く |
| Oxley ほか、J NeuroIntervent Surg、2021年2月 | ALS の2人に、開頭せず血管から入れる Stentrode を埋め込み、視線追跡と組み合わせて Windows の操作や文字入力を行った。1分あたりの正しい文字数は、13.8字と20.1字 |
| Willett ほか、Nature、2023年8月 | ALS で話せなくなった参加者の、皮質内電極の信号を言葉に変換。125,000語の語彙で単語の誤り率23.8%、毎分62語。要旨は、自然な会話の速さ(毎分160語)に近づき始めたと書く |
| Metzger ほか、Nature、2023年8月 | 脳の表面の高密度電極で、文字・音声・顔のアバターの3通りに出力。文字は毎分中央値78語、単語の誤り率の中央値は25% |
| Card ほか、N Engl J Med、2024年8月 | ALS の45歳の男性に4つのアレイ(256電極)。手術の25日後(使い始めの日)に50語の語彙で99.6%、手術後8.4か月にわたり97.5%の正確さを保ち、約32語/分で累計248時間以上会話に使った。1人の結果 |
出典: 各論文のPubMed の要旨(2026年11月5日に確認)。いずれも少人数の参加者による結果で、同じ機器が同じ結果を出すとは限りません。
ここから分かるのは、皮質内・脳の表面・血管の中に電極を置く BCI の研究で、発話や文字入力の成績が、少人数の参加者で報告されている、ということです。ニューラリンクの参加者が出している成績は、こうした流れの中で、会社が独自の指標で報告しているものと位置づけられます。
日本の会社と国の考え方
日本の内閣府・文部科学省の研究開発構想(令和5年12月)は、米国が侵襲型の技術開発で他国を圧倒している一方、日本は低侵襲型や非侵襲型を中心に技術開発を進めてきた強みがある、と整理しています。侵襲型は使う人の負担が高く、日本では社会的に受け入れられにくい可能性があるため、負担の低い非侵襲型への期待が大きい、とも書いています(内閣府・文部科学省)。
- JiMED(ジーメド): 大阪大学発の医療機器の会社(2020年設立)で、頭蓋内に電極を置き、ワイヤレスで脳の信号を取り出す植込み型 BCI を開発しています。慶應イノベーション・イニシアティブの2026年6月19日の発表は、JiMED が PMDA(医薬品医療機器総合機構)に提出した治験計画届が受理され、「2026年内に開始予定」の ALS 患者を対象にした日本初の企業治験の準備を進めると書きました(発表、NEDO の紹介ページ)。ニューラリンクと同じく頭蓋内に埋め込む方式で、治験はこれからです。
- LIFESCAPES: 慶應義塾大学発の会社で、頭皮上の生体信号で動かす脳卒中後の手指のリハビリ機器を、非侵襲で作っています。「医療用 BMI(手指タイプ)」は2024年3月26日に医療機器認証を受け、2024年6月1日から保険適用になりました(発表、発表)。対象は脳卒中後の手指のリハビリで、ニューラリンクのような意思伝達の機器とは目的が違います。
つまり、日本で先に医療の現場に届いた BCI は非侵襲型のリハビリ機器で、侵襲型は治験を始める段階です。同じ BCI という言葉でも、機器によって目的も、必要な手術も、承認の段階も違います。
安全と倫理|治験の限界と脳の情報
ニューラリンクを含む脳埋め込み型の BCI について、読む人が押さえておくべき点を、公式の説明と国際機関の資料で整理します。
- 治験は効果を保証しない: 会社自身が、PRIME の参加について「効果を保証しない」と書いています(2024年4月12日、2024年8月21日)。第一の評価項目は有害事象です。
- 手術のリスク: 会社は、人体は異物を瘢痕組織で包もうとする反応があり、糸への強い反応は信号の質と安全を損ねる可能性がある、と書いています(2025年5月2日)。会社は動物実験などで好ましい組織反応を示したと書いていますが、人での長期の結果は、これから明らかになる段階です。
- 承認までの道のり: ロイターは、FDA が2022年に最初の申請を退け、安全上の懸念に会社が対応したあと、2024年に人での治験が始まった、と報じています(ロイター配信)。
- 参加者の条件: 治験の登録が示すとおり、参加できる人は年齢・病気・期間・介護者の有無などで限られます。日本の施設で参加する治験はありません。
脳の情報の扱いも、大きな論点です。ユネスコの公式ページは、脳のデータは「私たちのもっとも私的な考えを明らかにしうる」ので、神経技術による収集は不正なアクセスや悪用から厳しく守られなければならないと書いています。同じページは、企業が非侵襲の機器で得た神経データを、行動に影響を与えて利益を得るために使いうることにも警告しています(UNESCO「Ethics of neurotechnology」)。日本総研の報告書は、ユネスコが2025年11月にブレインテックの倫理の枠組みを採択したが、法的な拘束力は無いこと、データの不正取得や、脳活動のデータを採用や昇給に使う偏見・差別などを課題に挙げています(日本総研「ブレインテック最新動向2026」)。
日本で BCI の仕事をするには|ニューラリンクの採用と国内の道
「ニューラリンクで働きたい」と考えたとき、まず公式の採用ページを確かめるのが確実です。ニューラリンクの採用ページは、求人システム Greenhouse の掲載を表示する形になっています。
ニューラリンクの採用|日本の勤務地は無い
公式の求人の一覧(Greenhouse の公開データ)を2026年11月5日に開くと、募集は79件でした。勤務地は、テキサス州オースティン、カリフォルニア州のサウス・サンフランシスコとフリーモントのいずれかで、公式の採用ページに日本の勤務地は無い(2026年11月5日時点)ことが分かりました(公式の採用ページ、公開データ)。
募集の題から、どんな専門の人を集めているかも分かります。例を挙げます。
| 分野 | 募集の題の例(英語のまま) |
|---|---|
| ソフトウェア・信号処理 | Software Engineer, BCI Applications/Software Engineer, Implant/Signal Processing Engineer/Machine Learning Engineer |
| 電気・集積回路・組み込み | Analog IC Design and Verification Engineer/Embedded Software Engineer, Implant Embedded Systems/Electrical Engineer, Robotics |
| 機械・ロボット・製造 | Mechanical Engineer, Surgery & Robotics/Microfabrication Engineer (R&D)/Manufacturing Engineer |
| 神経・病理 | Neuroengineer, Next Gen/Veterinary Pathologist/Pathology Specialist, Anatomic Pathology |
| 規制・品質 | Regulatory Engineer/Quality Engineer, Software Design Controls |
| 契約・採用・IT | Contracts Manager/Technical Recruiter/IT Systems Administrator |
出典: Greenhouse の公開データ(2026年11月5日に確認、更新日は2026年11月2日まで)。募集は変わります。応募の条件や在留の扱いは、各募集の本文で確かめてください。
この表のとおり、BCI の会社が採るのは神経科学者だけではありません。電気・機械・ソフトウェアの技術者、製造、規制や品質、契約・採用・IT 管理まで幅があります。日本から海外の会社を目指す場合も、まず自分の専門がどの分野に当たるかを見るのが近道です。
日本の BCI の会社で、掲載中の仕事
日本で BCI の仕事をするなら、国内の BCI の会社や研究機関の募集があります。公式の採用ページで確かめた、当サイト掲載中の募集から、仕事の種類ごとに紹介します。募集は変わるので、応募の前に各社の公式ページで最新を確かめてください。
ニューラリンクと同じ「脳に埋め込む」方式の日本の会社は JiMED です。治験の準備が進む会社のため、薬事と事業の仕事が募集に出ています。
- 薬事部長: 国内での企業治験の準備の中で、PMDA との相談・協議を通じた薬事戦略を具体化する、薬事の責任者です。
- 事業開発部長: 北米などの事業戦略、海外の提携、海外の専門医との関係づくりを担当する仕事です。
脳波を使う非侵襲の BCI を医療機器として売る LIFESCAPES では、ソフトウェア、薬事、臨床開発の仕事が出ています。
- ソフトウェアエンジニア(BMI 医療機器): BMI 医療機器の PC・タブレット用ソフトウェアの開発です。脳波信号の解析と GUI を持つソフトウェアを、医療機器の品質基準に沿って設計します。勤務地は東京都(広尾本社)です。
- 薬事スペシャリスト: 医療機器の薬事戦略と保険適用申請の方針を立てて進める仕事です。
- 臨床開発スペシャリスト(業務委託契約含む): 医療機器治験のプロジェクトマネージャーとして、治験の推進、手順書や各種申請書の作成、行政相談・届出などを担当します。
- 事業開発・企画(長期インターン): 医療・ヘルスケア領域の新規事業の市場調査、競合分析、企画立案を支える長期インターン(有給)です。
脳波などの計測と研究の側からは、次の募集があります。
- [R&D]脳波計測 実験テクニカルスタッフ(アルバイト): 脳信号から言葉を読み取る非侵襲型のスピーチ BMI の研究開発を支える仕事です。脳波・生体信号の計測、実験の準備と片付け、計測データの品質確認、データ管理を担当します。
- [NAB]パーマネント研究員(HCI): 脳波・筋電・眼球運動などの信号を統合して解析し、技能の伝達をモデル化する研究員の募集です。
- 有期研究員(脳機能解析研究室・MRI/MEG を用いた次世代脳機能計測技術): 7テスラ MRI や MEG などで、人の脳機能を高精度に測る計測技術とデータ解析技術を開発する研究員の公募です。博士の学位と研究業績が条件に挙がっています。
ニューラリンクの募集に「Regulatory Engineer」や「Quality Engineer」があるのと同じく、BCI を医療機器にする過程では、薬事・品質・臨床開発の経験が求められます。これは、日本の BCI の会社の募集にも共通しています。職種ごとの一覧は、薬事・臨床開発・品質、エンジニア・プロダクト開発、脳波計測・実験技術から見られます。
BCI の全体像はブレインマシンインターフェース(BMI・BCI)とは、技術の領域はブレインテックとは、会社の一覧は脳科学・ブレインテックの会社一覧、職種の全体は脳科学の仕事・就職先にまとめています。
出典
すべて2026年11月5日に開いて確かめました。数字は各社・各機関が公表したもので、当サイトが測定したものではありません。将来の予定は計画で、確定したものではありません。
- 会社の公式(Neuralink): 更新欄、Series C、Series D、Series E、PRIME 募集開始、PRIME 進捗、2人目の参加者、A Year of Telepathy、Two Years of Telepathy、安全性の説明、CAN-PRIME、CONVOY、GB-PRIME、Blindsight 指定、発話の指定、2026年10月1日、2026年10月29日、採用ページ
- 治験の登録(ClinicalTrials.gov): PRIME、CONVOY、CAN-PRIME、UAE-PRIME、GB-PRIME、VOICE、Synchron のCOMMAND・INTENT・FOCUS-CAN・FOCUS-AUS
- 規制・国: FDA「Breakthrough Devices Program」、内閣府・文部科学省「脳波等を活用した高精度ブレインテックに関する先端技術」研究開発構想(令和5年12月)、NEDO スタートアップ紹介
- 他社: Synchron、Precision Neuroscience の発表(2025年4月17日)、Precision 公式、Blackrock Neurotech、慶應イノベーション・イニシアティブ(JiMED、2026年6月19日)、LIFESCAPES(2024年4月16日、2024年6月27日)
- 調査機関・報道: 日本総研「ブレインテック最新動向2026」(2026年4月9日)・報告書(PDF)、ロイター配信(KSL 掲載、2026年1月1日付)
- 論文: Hochberg ほか(Nature、2012)、Oxley ほか(J NeuroIntervent Surg、2021)、Willett ほか(Nature、2023)、Metzger ほか(Nature、2023)、Card ほか(N Engl J Med、2024)
- 国際機関: UNESCO「Ethics of neurotechnology」
確かめられなかったこと: ニューラリンクの設立年は、確かめた公式の資料に書かれていませんでした。2026年1月28日より新しい参加者数、Blindsight の最初の人への埋め込みの有無、PRIME の査読論文、有害事象の第三者による検証は、確かめられませんでした。Synchron の公式サイトは治験の人数や承認の段階を書いておらず、人数は ClinicalTrials.gov の登録によります。Blackrock Neurotech の公式サイトからは製品や設立年を読めませんでした。Merge Labs の内容は日本総研の報告書によります。上場の有無は、公式の資金調達の発表と報道の範囲で書いており、会社の登記や証券取引所の一覧では確かめていません。


